静かな時間であった。
2人の間にほとんど会話はなかったが、以前感じたような気まずい沈黙はなかった。ただ風を感じ、小鳥の囀りを聞き、川のせせらぎに身を任せる。たったそれだけのことだが、マグナスは今まで感じたことのない安心感を覚えていた。
緑に囲まれ、道らしい道など存在しない場所をエミリアは気にした様子もなく進んでいく。狩猟用の服装に身を包んだマグナスとは違い、エミリアはいつもよりは軽装なものの、長い裾のドレスだ。なのに彼女の足は器用に木々の間をすり抜け、マグナスの前を歩いて行く。
ケリーは女主人の隣にぴったりとつき、時折マグナスを急かすように吠えた。その声も森の奥に響きながら吸い込まれていく。
邸の庭のように庭師が手塩にかけて造り上げた人工的なものではない自然の緑。配置も配色もまるで統一されていないが、この美しさに惹かれるのは何故であろうか。

元々ここはマグナスが様々な喧騒や煩わしさから逃れる為の唯一の場所と同時に他の誰の侵入も許さない場所でもあった。サリアナも、リチャードも乳母であったミセス・タリス、両親ですらマグナスが密かにここに通っている事は知らない。
誰かが知るとことになった時、それがこの場所と別れを告げる時だとマグナスは固く誓っていた。
だが、エミリアは自らここへ導いた。後から理由付けなど幾らでもできようが、告白してしまえば理由などない。ただそうしたかったから、としか。
彼女と共に歩む同じ空間は、不快とはまるで正反対の感情をマグナスに与えた。それは安らぎと呼ぶに相応しく、未だ嘗て感じたことのない不思議な気持ちだ。口に出すのはひどく躊躇われるが、それがエミリアによってもたらされるものだと彼も自覚していた。

エミリアの纏う空気は柔らかい。敢えて言葉にするのなら午後の陽だまりか、凍てつく冬を越えた先の凪いだ春風だ。だが時にはこちらが驚くほど強い瞳をするし、一旦こうと決めたことは真っ直ぐにやり通す頑固さもある。
それが温室の中で蝶よ花よと育てられた他の令嬢とは違うところだ。夜会やオペラよりもダニエルと外で遊ぶことを好み、新しいドレスよりもマグナスにもっと子供のことを考えろとせがむ。エミリアの我が儘は決して己の為に使われることはない。

無意識のうちにマグナスは自分の左胸辺りを強く掴んでいた。彼の力に皺一つなかったシャツに歪な線が刻まれる。
――時折感じるこの胸を焦がすような、締め付けるような痛みは一体何なのだ?

「エミリア」

マグナスの呼びかけに、数歩先を歩いていた彼女が振り返る。金色の髪が風に遊ばれ軽やかに揺れ、逆光が彼女のほっそりとした体を薄い光の膜で包む。
眩しさに目がくらんだ。
できることならその体を強く抱きしめてしまいたい。だが、そんな欲望などマグナスとエミリアの契約の前で意味など成すはずがない。そうでなくてもマグナスの身勝手な感情でエミリアを何度傷つけたか知れないのだ。
必死に己を律し、平静を装って言葉を続けた。

「あまり先を急ぐのは危険だ。長い裾を踏んで転んでしまうだろう」

だがマグナスの忠告をエミリアは悪戯っぽい笑みで一蹴した。

「心配には及びません。これでも運動神経には自信があるのです。故郷の村にいた頃はしょっちゅう男の子に混ざって遊んでいました」

言ってからエミリアは自分の失態に気付いた。
下層の中流階級出身であることと、従兄弟が殆ど男児だった為に幼いエミリアの遊び相手は殆ど男の子だった。本来なら有り得ない事ではあるが、両親も他の大人が見ていなければという前提で彼らと遊ぶことを許してくれていた。
だがマグナスは生粋の貴族だ。貴族の令嬢は慎ましやかに家で過ごすことを基本としている。きっとはしたないと呆れられたに違いない。
恥ずかしさにおもわず俯くが、次にマグナスが掛けてくれた言葉はエミリアの予想を大きく越えていた。

「ああ、道理で。ネルソンが言っていた。君はダニエルと庭でよく競争をしているそうだな」

驚くべきことにそこに咎めの色はなかった。それどころかどことなく楽しそうに彼は言う。

「その運動神経ならすぐに乗馬もできるようになる。いい馬が見つかったらすぐに君にプレゼントしよう。狩に付いてくる婦人もいるから、何か言われる心配はない」
「それは…とても嬉しいです。今日初めて馬に乗りましたけど、実を言うととても気に入ってしまったんです」

嬉しさか恥ずかしさか、エミリアの頬がほんのりと紅色に染まり、マグナスは自制の為に更に拳に力を込めなくてはいけなかった。
どうしてかエミリアは簡単にマグナスの心を掻き乱す。今までに彼の心をこうもあっさりと攫っていった女性がいただろうか。彼女といると自分がまるで分からなくなる。
鉄壁の仮面を着け、お互いのプライベートには一切干渉せず形だけの夫婦であることをエミリアとの結婚を決めた時に誓った筈だ。その考えはきっと今も変わってはいない。
マグナスはなるべくこれまでの生活を変えるようなことはしたくないと思っていたのだ。妻がいるから、子供がいるからと言って自分のテリトリーを侵されることは我慢ならない。貴族として、結婚と嫡子を設けることは半ば義務であった。
だが少しずつ、感情に思考がついていかなくなっている。固く何人も通さぬ壁を作る傍らで、自らその城壁を壊そうともしているのだ。こうしてエミリアをこの場所に連れてきてもなお、マグナスの中で激しくせめぎ合うプライドと過去が最後の一歩を踏み出すことを恐れている。
マグナスがマグナスであり続ける限り、その2つはなくなりはしないのだ。

エミリアから視線を逸らし、静かにマグナスは切り出す。この苦しくも優しい時間もそろそろ終わりだ。

「そろそろ屋敷に戻ろう。いつまでも君を独占してはダニエルに恨まれる」

マグナスの言葉にほんの少しの寂しさを覚え、エミリアは戸惑った。
あれ程早く邸に戻り、ダニエルと仲直りをしたいと考えていたのに今はこの穏やかな時間が失われることに落胆している自分がいる。予想に反して、心地よい空間がエミリアの中にある昨夜のマグナスへの恐怖を消し去っていた。
たった数時間ではあったが、こんなにマグナスと同じ時間を過ごしたのはこれが初めてではないだろうか。いや、結婚後すぐラザフォード領に向かう時は2日間馬車に揺られ、宿も一緒だった。
だがあの時2人の間に流れる空気はもっと重苦しいものだった。最低限の会話は丁寧ではあったが温かみはなく、ただ同じ空間にいるまったくの他人と言う方がぴったりと当て嵌まっただろう。
けれど今日は違う。言葉こそないものの静かで穏やかな空気が始終2人を包んでいたし、初めて見た彼のささやかな笑みはエミリアの頬に熱を持たせた。僅かでもマグナスの過去を窺い知れたことも大きな喜びであった。

昨夜のことからマグナスがエミリアに対して秘密を持っている事は明らかだった。他人が自分の心に触れるのを極端に嫌うのはきっとその為だろう。
しかし今朝感じたような切なさは今はなかった。例えマグナスがどんな秘密を隠していようとも、この数時間紡いだ時間は決して嘘ではないと思ったからだ。
彼が自分から話してくれたら――その時は何も言わずに聞こう。生涯それがなかったとしても、マグナスを責める気持ちなど微塵も湧いてはこなかった。秘密は誰もが有する。無理に暴く必要などどこにもない。

「ええ、マグナス。戻ったらたっぷりとダニエルを甘やかします」

エミリアは頷き、マグナスが差し出した手に自分のそれを重ねた。彼の力強い指先が、壊れ物を扱うように丁寧にエミリアの指先を撫でる。
まるで2人もこの時間の終わりを心から惜しんでいるかのように。






*





帰りの道はひどく早く感じた。行きよりもずっとゆっくりとブルーノを走らせていたのにだ。大半は沈黙が占め、残りの会話も無難なものであった。
ケリーとブルーノが久々の遠出に満足し、落ちついて手綱を取ることができたのが唯一の救いだ。こんな散漫した集中力は狩の時には命取りにもなる。
幸いマグナスの乗馬の腕と名馬と謳われるブルーノのお陰で今のところそう言った危険はないが、注意を怠って落馬した貴族を何人も知っている。
己の幸運を神に感謝し、すっかりブルーノの背中が気に入った様子のエミリアを抱き上げて地面に降ろした。できるだけ華奢な体に力を込めないようにしながら。
勤勉な使用人たちは馬の蹄の音が聞こえると同時に玄関から出てきたらしく、慌てる様子もなく並んで主人たちを出迎えた。執事やミセス・タリスの姿はなかったが2人はその事実に気がついていなかった。

「連れて行って下さってありがとうございました。とても楽しかったです」
「ああ。私もだ」

言ってからマグナスはそれが本心からの言葉だということに気付いた。いつも静かなあの場所が特別鮮やかに見えたのはエミリアの所為でもあろう。

「今度はダニエルも誘って――」

エミリアの言葉を遮るように玄関の扉が乱暴に開き、ミセス・タリスが現れた。その表情は険しく、いつも穏やかに冷静にメイドたちを取り仕切っている彼女からは想像もつかなかった。
マナーを欠いたミセス・タリスの行動にマグナスは一瞬眉を顰めたが、すぐに「どうしたのだ」と返すに留まった。尋常ではない彼女の雰囲気にそれだけ緊急のことなのだろうと踏んだからだ。

「奥様!お疲れのところ申し訳ございません、ダニエル様が」

ミセス・タリスの言葉を最後まで聞くことをしなくても彼女が言わんとしていることを悟ったエミリアはさっと表情を強張らせた。

「分かったわ。すぐに行きます。マグナスは……」
「私も行こう」

先にお休みになってください、と続けようとした矢先にマグナスがそう言ったのでエミリアは頷いた。ダニエルは彼の息子だ。
早足で歩きだした2人の後をミセス・タリスが追いかける。3人分の足音が高い天井いっぱいに木霊し、耳を煩わせた。ダニエルの部屋までがこんなに遠く感じたことなど今までない。エミリアは(はや)る気持ちを抑えられなかった。
今ほど長い裾のドレスが邪魔に感じたこともないだろう。

ダニエルの部屋は主階段を上った先の、家族の中では一番奥の部屋になる。そこにはすでにネルソンがおり、開いたドアから子供の泣く声とナタリーのものだろう、女性の高い声が聞こえた。
ネルソンはエミリアの後ろにいるマグナスに気付くと一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに頭を下げるとドアの端へ寄り主人たちに道を開けた。
エミリアが部屋を覗くと、そこはいつかの再来であるかのような光景であった。床に座って泣き叫ぶダニエルとそれを必死の形相で宥めようとするナタリー、周りには物が散乱し、割れた花瓶から零れた水がカーペットを汚している。

「これは…どういうことなのだ」

今まで使用人たちから話を聞いたことはあっても実際にダニエルの癇癪を目の当たりにするのはこれが初めてだった。マグナスは目の前の光景がまるで夢のように思えて仕方がなかった。
いつも大人しく表情を変えない息子が力の限り泣き、感情をぶつけている。おもわずエミリアの方に視線を向けるが、彼女は何も言わず真っ直ぐにダニエルの方へ歩みを進めた。
その迷いのない足取りにマグナスはただ息を詰めて見つめることしかできなかった。

「ダニエル」

エミリアの声は静かで穏やかだった。先ほどまでナタリーの(つんざ)くような声からしてみたら、聞き逃してしまうのではないかと思うほど小さな声。
だがダニエルは彼女の姿を確認すると涙で濡れた瞳で、エミリアを見上げる。縋る様な目は必死で何かを訴えている。
エミリアが腰を折って両腕にダニエルを抱える頃にはすっかり大人しくなり、小さくしゃっくりを繰り返しながらエミリアの肩口に顔を埋めた。その小さな背中を撫でるように優しく叩き、エミリアはナタリーを振り返った。
さっきまでの余韻からか大きく肩で呼吸し、髪を乱しているナタリーは女主人とその腕に抱かれているダニエルを強く睨みつける。手櫛でほつれた髪を耳に掛け、すっかり皺になってしまったドレスを直すことも忘れてはいない。

「ナタリー、一体何があったの?」
「いいえ。奥様には関係のないことです。ただ私とダニエル様の間に意見の相違があっただけです」
「意見の相違とは具体的に何かを聞いているのだ。どう関係ないのか答えなさい。事によっては君がこの邸から出ていかなくてはならない」

しっかりと、しかしどこかエミリアを蔑んだような言い方に成り行きを見ていたマグナスが口を開いた。ナタリーがエミリアに対してこんな態度を取っていたことすら今日初めて知ったことだ。
低く苛立った声を聞いたナタリーはそこで初めてマグナスの存在に気付いたようだった。はっと顔を上げ、気まずそうに背けた顔は羞恥に赤く染まっている。
いつも息子のことなど気に掛けない主人がまさかここにいるとは思ってもみなかった。きつく唇を噛んで荒れ狂う胸の中を必死で抑え込む。
エミリアが後妻としてグランヴェル邸に来るまでは、ダニエルの面倒は一切ナタリーが見ていた。時々ひどく機嫌を損ね、中々ナタリーに心を開かないことに落ち込んではいたが、それでもダニエルのことを一番分かっているのは親であるマグナスでも女中頭であるミセス・タリスでもなく自分だと胸を張って言えただろう。
母親のいない可哀想な子供にナタリーは出来るだけ愛情を注いできたつもりだ。もう少し大きくなれば寄宿学校に入れられてしまう。せめてそれまでは乳母として自分が一生懸命育てなければならない。そう思って毎日必死だった。
それなのに突然、この家の主人である伯爵が結婚したことから状況は一気に変わった。エミリアも貴婦人の例に漏れず継子を目に掛けたりはしないだろうと思っていたのに、それは大きな間違いであった。彼女は暇さえあればダニエルと会話をし、辛抱強くダニエルの言葉を待った。癇癪を起した時も屋敷中の使用人たちを悩ませていたのは何だったのかと思うほどあっさりとダニエルの心に住みついていた闇を取り払った。
ナタリーがダニエルと築き上げてきたと思っていた絆は一方的なものでしかなかったことがとても悲しかった。エミリアがダニエルを抱き上げ一緒に笑っている姿を見る度に悔しくて仕方なかった。私だって一生懸命だったのだと何度叫びたかったか知れない。
その遣る瀬無さからエミリアに冷たい態度を取り続けてきたのが、今日になって大きな仇となった。邸のことに関して決定権はすべて当主である伯爵にある。女主人に放った悪意を、伯爵は許しはしないだろう。
ナタリーは疲れたように肩を落とした。

「…花が」
「花?」
「生けてあった花が枯れていたので、取り変えようとしただけです。それから突然ダニエル様が泣きだして」

落ちて割れた花瓶を見れば、ナタリーの言っていることが嘘ではないと分かった。だがそれだけでどうしてダニエルがあんな行動を取ったのかエミリアには分からなかった。
以前癇癪を起した時には寂しさを言葉に出来ないからという明確な理由があったが、今回ばかりはダニエルの言い分も聞かなくては分からない。エミリアはなるべく刺激を与えないようにダニエルに話しかけた。

「ダニエル、ナタリーに花を捨てられるのが嫌だったの?」

微かに頭が動き、ダニエルが頷く。

「それはどうして?」
「……」
「ダニエル」

宥めるような声にダニエルはおそるおそるといったように口を開いた。エミリアのドレスに顔をつけている所為か、それともたくさん泣いた為か掠れた声がぽつりと言葉を零す。

「はな、いっしょのだもん」
「一緒の?」

何度も嫌だというように首を横に振り、それっきりダニエルは黙ってしまった。なす術がなく途方にくれたエミリアがふと床に視線を向けると、割れた花瓶と半分以上萎れてしまっている花が目に留まった。
先ほどナタリーが言ったのはこのことなのだろう。
割れた花瓶の破片で怪我をしてしまっては危ないから、すぐにメイドに片づけさせようと思った時エミリアははっとした。枯れかけている花に見覚えがあったからだ。
あれは確か2,3日前だ。ダニエルと一緒に摘んだ花。大事にしましょうね、とダニエルと半分に分けて自分の部屋にも飾ってある。
その花は日向よりも日蔭を好むことを知っていたエミリアは花瓶を陽の光が当たらない場所に置いていたが、この部屋を掃除している使用人が気付かずに窓際に近いテーブルに飾ってしまった為に早く枯れてしまったのだろう。
ダニエルが自分との約束を彼なりに一生懸命守ろうとしてくれていたことに、エミリアはすっかり胸が熱くなった。柔らかな髪を梳き、額にキスを落とす。ダニエルが擽ったそうに身動ぎしても止めるつもりは毛頭なかった。

「ありがとう、ダニエル。また一緒にお花を摘みに行きましょうね。でもナタリーは何も知らなかったの、彼女が悪いわけじゃないわ。謝りましょうね」

腕の中でダニエルが頷き、ゆっくりと顔を上げる。赤くなった頬と目がすっかり気落ちしていたナタリーを捕える。ごめんなさい、と小さく呟く唇は彼女には見えたのだろうか。
エミリアもナタリーとマグナスにダニエルの癇癪の理由についてきちんと説明した。

「私もきちんと話していなかったのがいけなかったわ。ごめんなさい、ナタリー。指が少し切れてるわね、後でちゃんと治療して」
「はい、奥様」
「ダニエルのこと、たくさん教えてね。ダニエルったら私といるときナタリーの話をするの。あなたのこと好きなのね」

意外な言葉にナタリーは弾かれたように顔を上げた。てっきり自分はダニエルに嫌われているものだとばかり思っていたのだ。視界がゆっくりと曇っていくのは涙の所為だろうか。
ナタリーは何度も頷き、エミリアに心の中で謝った。彼女はナタリーからダニエルを取り上げようとしているのではない。ただ一緒に頑張ろうと言ってくれる。ナタリーは自分の態度を大いに反省した。

「まったく、君は本当に人の心を掴むのが上手い」

一部始終を見ていたマグナスは苦く笑いながら呟いた。この邸の主人であるというのに全くと言っていいほど役には立たなかったが、ダニエルとナタリーには彼の一言よりもエミリアの一言の方が胸に応えたらしい。
エミリアはそうやってこれからもたくさんの人の心を攫って行くのだろう。

「褒め言葉として受け取っておきます。さ、ダニエル。顔を洗って支度しましょう。今日はナタリーも一緒に散歩よ」

優しくダニエルを抱き上げるエミリアを見てマグナスは急にあることに気付き愕然とした。
彼はまだ一度もダニエルをこの腕に抱いたことがないのだ。生まれてから今日までたったの一度も。
罪悪感に苛まれると同時にダニエルを抱きしめるのがひどく恐ろしかった。その理由はたった一つに他ならない。

去っていく彼らを見ながらマグナスはただ、拳を固く握りしめることしかできなかった。






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